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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1004号 判決 1949年11月28日

本店所在地

四日市市千歳町十番地

株式会社 安藤製油所

右代表者代表取締役

安藤三五

本籍

大垣市久瀨川町二百十八番地の一

住居

四日市市赤堀二百六十三番地

株式会社安藤製油所代表取締役

安藤三五

明治三十一年九月三十日生

右被告人両名に対する法人税法立所得税法各違反被告事件について津地方裁判所が昭和二十四年八月二日言渡した有罪判決に対し、被告人両名から夫々適法な控訴の申立があつたので当裁判所は検事神野嘉直出席の上次のように判決する

主文

原判決を破毀する

本件を津地方裁判所に差し戻す

理由

被告人両名の弁護人牧野良三、同杉浦酉太郞、同新家猛三名の控訴の趣意は末尾添付の同弁護人三名名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りであるが之に対し当裁判所は次のように判断する。

右控訴の趣意第一点について

原判決に依ると原判決が其の理由中の証拠説明の部に於て被告会社は三重県四日市市千歳町に本店を有し、植物油、洗剤の製造加工販売等を目的とする資本金三百万円の株式会社にして被告人安藤三五は其の代表取締役として会社の業務を執つて居つたこと。判示第一記載の事業年度に於ける会社の所得税が少くとも八十万五千二百八十四円なるに拘らず昭和二十三年一月中四日市税務署に対し之を十五万五千二百九十五円なりとして申告したる事実判示第二記載の同会社事業年度の所得額は少くとも二百六十二万九千六百六十二円なるに拘らず之を昭和二十三年七月中四日市税務署に対し三十八万千四百六十六円なりとして申告した事実判示第三記載の事業年度に於ける同会社の所得額が少くとも金六百五十四万六千二百六十六円ないしに拘らず之を昭和二十四年一月中四日市税務署に対し百十一万三千百七十三円なりとして申告したる事実並判示第四の(一)にも(一七)の各日時に其の記載の各金額の賞與、退職金、年度末調整金につき所得税法に依る源泉徴收をなさなかつた事実は被告会社の代表者であり又被告人である安藤三五に於て自認するところである旨説示して其の所謂自認とは被告人安藤三五が原審公判廷に於て為した自供を指称するものであることは、右説示自体に徴して明らかである。然るに原判決説示の右事実中被告会社が植物油洗剤の製造加工販売等を目的とする資本金三百万円の株式会社であること並被告人安藤三五が被告会社の業務を執つて居たことにつき被告人安藤三五が原審公判廷に於て其の旨の自供を為したことは原審各公判調書を通じても之を認め得ないが故に原判決は虚無の証拠によつて事実を認定したものに係り斯の如きは訴訟手続に法令の違反があつて其の違反が判決に影響を及ぼすことが明らかなものと謂はねばならぬ。従つて論旨は結局其の理由がある。

右説明のように原判決に違法の廉がある以上、爾余の論旨に対する判断を俟つ迄もなく原判決は既に右違法の廉により破毀を免れないので刑事訴訟法第四百條本文第三百九十七條に則つて主文のように判決する

(裁判長判事 深井正男 判事 河野重貞 判事 上田孝造)

参照(被告控訴趣意書)

昭和二十四年(控)第一〇〇四号

控訴趣意書

控訴人 株式会社安藤製油所

同上 安藤三五

弁護人 牧野良三

同上 杉浦酉太郞

同上 新家猛

昭和二十四年九月三十日

名古屋高等裁判所刑事第三部御中

右被告人等に対する法人税法違反及び所得税法違反控訴事件につき控訴趣意書を次の通り提出する

第一点

一、原審判決は、理由不備の違法があり、刑事訴訟法第三百三十五條に反するものと信ずる

原審判決は判示第一乃至第三の事実に対する証拠理由として

「判示第一記載の事業年度に於ける会社の所得額が少くとも八十五万五千二百八十四円なるに拘らず昭和二十三年一月中四日市税務署に対し之を十五万五千二百九十五円ないとして申告した事実、判示第二記載の事業年度……云々、判示第三記載の事業年度に於ける……云々の事実は、被告会社の代表者であり、又被告人である安藤三五に於て自認するところであり、之を証人森史郞に対する尋問調書の記載並に記録三四一丁乃至三五四丁の所得及税額比較表と題する書類の記載を綜合すれば之を認定し得る。」

と説明しているのであるが、右に指摘する「被告人安藤三五の自認」と云うのは果して本件記録中の何を指して云うのであるか判決自体によつては少しも明らかにされておらぬ、

刑事訴訟法第一九八條第一項に「被疑者に対しあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならない」と定め同第二九一條第二項は、「裁判長は起訴状の朗読が終つた後被告人に対し、終始沈默し又個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨……告げなければならない」と規定し、又同第三一九條は「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白はこれを証拠とすることができない」「前二項の自白には起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む」と定め被告人の自白、自認に関し、特に、詳細な規定を設けると共に、これが証拠力についても嚴重な要件と制限とを附していることは新刑事訴訟法の一大特質をなすものである。従つて原審判決が被告人の自認を採つて証拠とするには如何なる訴訟手続における如何なる自認であるか、判決に表示しなければ果して、形式上適法な証拠力があるか否かすらこれを知ることができないのである。

しかるに原審判決が漫然「被告人の自認によつてこれを認める」と云うが如きことは証拠説明として理由不備の違法があり明らかに刑事訴訟法第三三五條に違背するものと云わなければならない。

(第二点以下第四点まで省略)

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